世界最高齢のfacebooker
1981年にヒットした「コンピューターおばあちゃん」はNHKの”みんなのうた”。どんな質問にも的確に答えられて、英語も堪能な理想のおばあちゃん像の歌だ。半年前に104歳で亡くなったイギリスのリリアン・ロウさんは、iPadを操るfacebookの最高齢ユーザーだった。イマドキの「コンピューターおばあちゃん」は、質問に答えられるだけではなく、難しく思えるどんな機能も簡単に使いこなそうとした。その原動力は、知識を広げるためではなく、遠く離れた7人の孫と13人のひ孫の「今」と繋がるためだ。おばあちゃんはfacebook上でみんなに囲まれ、夢のある質問に答えながら、幸せな晩年を過ごしたことだろう。今やコンピューターは家電となり、ネットは若者だけのものではない。こんなおばあちゃんのような賢者がいれば、SNSのルーツともいえる「2ちゃんねる」はもっと豊かな社会になっていただろう。
(CM通信 2012.8.6号)
ネットの魔力
ネットらしくないコンテンツ「do nothing for 2 minutes(2分間何もしないで)」はインタラクティブを逆手にとったアレックス・テューの作品。2分のカウントダウンの間、波音を聴きながらブラウザに広がる美しい海の夕景を眺め、マウスやキーボードを触ってはいけないというもの。 700,000以上のいいね!はアイデアの面白さに加え、アレックスが作ったというのも大きい。彼は7年前、大学の学費を稼ぐために「Million Dollar Home Page」を作成したネット上の有名人だ。自分のサイトに100万ピクセルの広告スペースを作り、1ピクセル1ドルで販売。奇抜なアイデアが大きな話題になり、5ヶ月後には完売して彼は約1億円を手にしてこのように語った。「一か八かの賭けのようなものだった。私は何も失うものはないと考えた。ドメイン登録とホスティングの設定にかかる50ユーロを除いて。」小さな予算でも大きなアイデアを仕掛けられるのがネットの世界。広告会社や制作会社が受注を待つだけではなく、自らコンテンツを開発するのも次世代のビジネスかもしれない。
(CM通信 2012.8.13号)
真のサプライズ
Youtubeで300万ビューを記録したのは、デンマークの平凡なバスの運転手、ムフタールさんのドッキリ映像だ。 5月5日、いつもの時刻にバスを運転中、タキシード姿の男が乗り込んできた。混み合う車内で彼は突然トランペットを吹きだしたので、迷惑そうなムフタールさんは運転に集中できずにドギマギしている。その直後、ネット上の呼びかけで集まった乗客たちの大合唱が始まり、自分へのバースデーソングだと気がついた瞬間、険しい表情が一転、真っ白い歯が画面いっぱいに広がる微笑ましいバースデー映像となった。(Bedre Bustur @Youtube)この集団サプライズは、ネットを介して決められた場所と時間に集まり、決められたパフォーマンスを行う”フラッシュモブ”と呼ばれる行為だが、この実録映像はリアルな感動があるため、バス会社のPR目的であっても消費者の拒否反応が起こりにくい。ムフタールさんは社長室に呼ばれてこう言われたかもしれない。「君のリアクションに社運がかかっていた。」
(CM通信 2012.8.20号)
特別なプレゼント
「子供の悪戯」のような遊び心が新しいモノを生みだすこともあるが、「ピンポンダッシュ」のように悪戯が過ぎて、1人でも悲しみを感じるものはクリエイティブとはいえない。facebookの創設者マーク・ザッカーバーグはハーバード大学に在籍中、大学のコンピュータに侵入して女子学生の顔写真を集め、それを2枚ずつランダムに表示させ、どっちが可愛いかをみんなに選択させるサイトをつくって処罰された。その後、学生みんなのためにオンライン版の学生名簿をつくり、それが進化して、世界中の人が楽しめるfacebookとなった。受け手の感情を自分のことのように感じるエンパシーがクリエイターには必要で、その能力はいいモノが生まれる鍵になる。
「Million Dollar Home Page」やムフタールさんのドッキリ映像のような「良質な悪戯」は、クリエイターの高度なエンパシーを感じとれる良い作品だ。クリエイティブとは人を幸せな気持ちにさせる「プレゼント」のようなもので、特別な感情と配慮が必要だ。
(CM通信 2012.8.27号)
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モノづくり
クリエーターのみなさんなら経験済みだと思うが、納期のデッドラインが近づくにつれ、緊張感に包まれて連日眠れない夜を過ごすことになる。そのような状況でクオリティーの高い理想的な提案を期日に間に合わせるのは、高いモチベーションとスキルが要求される。クオリティーを下げればなんとか納期に間に合うが、質の低いモノを提供することは、自分自身のブランドとプライドが許さないだろう。この自身のこころの葛藤が最も苦しい点であるが、これを乗り越えることこそが将来的に大きな意味をもつ。僕もこの原稿の締め切りに追われ、オン・タイムでその葛藤をしているが、この時ほど自分と向き合い成長できるチャンスはない。
モノを作り出すということはとてもたいへんな作業だ。しかし、理想という終着駅を見据えて、最高のモノを、他人に頼らず、自分自身の手でつくり出したとしたら、結果的に『得られる感動』は計り知れないだろう。
可能性の未来
これからのクリエーターに必要なのは、活動領域を広げ、新しいことにも積極的に挑戦することではないだろうか。僕自身は、アートディレクターという職種を十分に楽しみつつも、新しい領域の開拓に努めている。それは、デザインに興味をなくしプロフェッショナルを放棄したわけではなく、この大きな変革期において、あらゆる「備え=視点」を持って航海することが、『宝』の発見できる可能性を広げるのではないかと考えるようになったからだ。
ある大企業が掲げている「全員経営者意識」というものがある。今までは、専門職種を追及することだけが要求されていたが、今後は企業でも一人ひとりが危機感をもち、多面的かつ戦略的に物事をとらえ、将来的なビジョンを見据えながら会社を牽引していくことが求められてくる。組織単位ではなく、どれだけの能力を発揮して、会社や世の中に貢献できるかに注目は集まっているのだ。
専門的に学んでいない未知の領域に足を踏み入れることは容易ではないだろう 。しかし、現在の住み慣れた場所に落ち着くことなくそれができたなら、その努力と引き換えに価値 ( 宝島 ) を創造(発見)した時の『対価』を手に入れられることになるのだ。
求められる演出
クライアントの要求は、いかに個人のこころを響かせて「新商品」の購買に結び付け、継続的なファンにさせるかにある。
新商品であるからには、コンテンツも新しく斬新でないと個人のこころに好奇心という刺激を与えることはできない。刺激は購買の母であり、ブランディングの第一歩になる。クリエーターは、それを見つけるためにあらゆる角度から企画や手法を練ってモノをつくる必要があり、ましてやWEB の場合は、わざわざ遠くから見に来てくれている個人に最上級の未体験ゾーンを提供して、忘れられない思い出を持ち帰ってもらわなくてはならない。
秀吉と千利休の逸話の中にこんなお話がある。『利休の庭に見事なアサガオが咲いているというので、秀吉が利休のもとへ出かけていった。利休の庭を見て驚いたのはアサガオどころか一輪の花も咲いていない。秀吉は残念そうに利休の茶室に入ると、なんとその床の間には、色鮮やかなアサガオがただ一輪だけ活けられていた。これに感動した秀吉は利休にたくさんの褒美を与えた...。』
この千利休のような意表をついたおもてなしの演出こそが、秀吉や個人のこころを響かせて継続的なブランド・スパイラルへ誘い、永続的なファンをつくることにつながる。クライアントがクリエーターに求めているのはまさに『おもてなし』という最上級の戦略と演出なのだ。
一人の感情を捉える
あなたがもし、モノをつくり出すクリエーターだとしたら、このWEB という無限に広がる可能性の空間で、まず、多数に向けてではなく、ある一人の心を響かせるようなモノづくりを心がけていくのはどうだろうか。価値観が多様化している現在、自分に関係のないものにはまったく見向きもしない個人に対して、『あなたのためにこれをつくった』ということで、振り向かせることが最重要になってくる。
例えば、Yahoo! は一人の感情を捉えることに成功した良い例である。まず、Yahoo! のページを開くと「こんにちは、○○さん」という言葉が最初に目に留まる。それを見た個人は Yahoo! のサービスが自分のものであることに気づく。そこで個人が自分に向けられたものが最高のサービスであると判断すれば、必ず Yahoo! に対してレスポンスという対価を発生させる。この個人のアクションの始まりが Yahoo! との継続的な感情の結び付きをもたらし、Yahoo! が利益を得られる大枠のフレームが完成するのだ。
この戦略は一流の高級ホテルのサービスと良く似ている。コンシェルジュは客に対して「○○さん、ご用件は...」というようにていねいに名前を呼び「あなたのためのサービス」であることを明確に訴える。そして客は、そのコンシェルジュが自分のために最高のサービスをしてくれたと感じたならば、その人にチップを差し出したくなるもなるだろうし、次回もそのホテルを利用したいと思うはずだ。
こうしてとらえた一人の感情は、驚くほどスピーディーに、結び付きという糸を伝いながらあらゆる方法で広がり、やがて多くの人の心をとらえる。そして、その真価の生みの親であるあなた自身の心までも響かせることになる。
WEB の真価
今、大きな変革期の前にいる。個人の嗜好は一般性から独自性へと変わり、理性的な心理から欲望的な心理へと変化の様相を呈している。そして、この『パーソナル』というこころの色がハンドルを握り、世の中の経済を大きく動かす消費者主義の時代をつくり出そうとしている【図4】。これまでは、従来のメディア戦略の延長のような見られてきたWEB もこのような時代背景によって、中心的なメディアに変貌するための十分な材料を用意されたといえる。
こうした大きな変革期において、クリエーターが心がけるべきもっとも重要なことは、「個人とこころで結び付くモノをつくり出す」ということだ。個人のニーズは「個人のために最適化されたモノ」にある。これを念頭にモノづくりを楽しみ、広い視野で可能性の未来を探ることで、千利休やホテルのコンシェルジュが手にしたような最高の褒美をいずれ手にすることができるだろう。
(MdN Web Strategy 2005.10.30)
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新しい命の発見
いいモノをつくる人は探求心が旺盛だ。あらゆる角度からものを見て、常にイマジネーションのヒントを探し求めている。寝ても覚めてもピクルスのように発想漬けの毎日を送り、発酵させておいしくなる瞬間をじっと待っている。この生活は、西遊記の 緊固児(頭を締め付ける冠) のようなイメージでとても苦しそうだが、いいモノをつくるためには欠かせないプロセスだ。クリエーターは、アイディアが閃く瞬間に感じる「ファンタスティックな快感」を求めて、今日も探求の旅に出るのだ。
以前、織咲誠さんという有名なアーティストにお会いした時に、彼の不思議な行動を目の当たりにした。僕たちと会話しているのにも関わらず、視覚に飛び込むものを物色し、まるで刑事の鑑識のような行動をとる。柱や壁、テーブルや椅子、グラスやスプーンなどはもちろん、ありとあらゆるものを丁寧に触っていく。その行動の理由を訊ねると「触感で視覚を確かめている」と言う。とても不思議だが、興味深いモノの見方だ。確かに視覚で触感を捉えるのは、食わず嫌いのように先入観があり、誤解があるかもしれない。織咲さんが僕に触ってごらんと言うので、ゆっくりと目を 閉じて グラスやスプーンの感触を確かめると、はじめてウニを食べた時のように 、 これまでの先入観を否定して 、 少し得をした気持ちになった。
織咲さんのように探求心を持ち、新しい視点を置くことで、その先に発見があることを僕は確信した。織咲さんのどの作品も、人とは違う視点で物事を『探ってきた証』を垣間見ることができる。マクドナルドの S サイズ・ポテトの小さい袋を使用して、美しい無数の丸い穴を開ける。手に持ってその袋に直接光を当てると、なんと『 LOVE 』という文字の影が床に落ちた。袋に印刷された赤と黄色のマクドナルド・ロゴでカモフラージュされていたので気づかなかったが、良く見ると無数の丸い穴が LOVE という文字を形成していた。織咲さんの探求心がモノの新しい命を見つけ、単なるゴミを価値のある芸術品にした。
そこに秘められた力
探求心がもたらすものは大きい。これまでの価値観をぐるり180度変えてしまうような、全く新しい体験を生むからだ。前述した「視覚の先入観」の話もそうだが、探究心によって得ることができた新しい感覚が これからのモノづくりに大きく作用する。
僕が5年前から本格的に行っているプログラムの一つに『左手の開発』がある。右利きの僕が「どうして右手を使うのだろう?」と、普段の生活に対して疑問を持つところからスタートして、衰退した左手を復活させることがどのような結果をもたらすのかを探ったものだ。左手で 箸 を持つ、左手で書く、左手でライターに火をつける...。最初は、思い通りにならないのでとても苦しいが、箸を持てるようになるまでの過程を客観的に分析できる。
徐々にできるようになっていくその光景は、自分の子供の成長過程を見守るように可愛くてたまらない。このプログラムによって、変化はあったのか?というのは皆さんも気がかりだろうが、かなりの変化と効果があった。まずは、1年くらい毎日実行したことで、神経が作用して完全にできるようになった。そして、自分が進化するような新しい感覚になって思考に変化が現れた。さらに、なぜか不思議な直感が働くようになった。
その証拠に、ここで原稿を書きながら左利きの文献が気になったので調査した。すると、今日 2 月 10 日は偶然にも日本左利きの日( 0210 =語呂合わせでレフト)だった。この偶然も、僕の探求心が生んだ新しい能力なのかもしれない。
未来の宝探し
織田 信長という歴史上の人物も、好奇心や探求心が強く、新しい物好きであることは良く知られている。ワインを好み、ビロードマントや西洋式の帽子を着用して、天皇を招いて催されるイベントに備えたという。あの時代にワインやビロードマントとは恐れ入ったが、信長の探求心が「桶狭間の戦い」で功を奏する結果となる。信長が火縄銃という最新の武器を発見して、約2万人の今川義元軍にわずか3千人余りの織田信長軍が圧勝した。
探求心は、未知の力を引き起こす。そして、次の時代を切り開く未来の鍵になる。今、 WEB 業界は急速に注目を浴び始めている。そして、個人向けに自由度のあるカスタマイゼーションサービスをキーに次のパラダイムへと突入した。まだまだ開発途中の WEB の未来は「桶狭間の戦い」よりもエキサイティングで、前述した僕の『左手の開発』よりもずっと無限でファンタスティックだ。まるで『宝探しをしているようだ。』
WEBの進歩は人間の探求心が作り出し ている 。もし、あなたがこれから WEB 業界をお考えなのであれば、これまでの価値観や先入観は捨てて、あなたの独創的な視点でこの世界を旅していくのはどうだろうか?これからのWEB業界はあなたの『秘めた力』が作り出すのではないだろうか。
今井康仁
MdN Web Creator 2006.2.28
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インターネット広告でも“おもてなし”の心
アド部門バナー広告金賞:「ゲットリアル 類似品にご注意を−神経衰弱」篇
今井 康仁(ビーコン コミュニケーションズ株式会社 クリエイティブ ディレクター)
HP: www.bulldozer.jp
−− 今回の作品におけるクライアントからの要望は。
今井: デザイナー達が作り上げた純粋なデザイン・プロダクトが、多くの模造品によってその「価値」を脅かされています。"Get Real"(ゲットリアル)は、本物のハーマンミラーブランドを消費者に伝えるための広告キャンペーンです。このバナー広告を通じて、買い手を守り、作り手の権利を保護する活動を促したいというクライアントの要望がありました。
千利休から学ぶ演出
−− 受賞作品について。
今井: この広告は、「神経衰弱」というアイデアはシンプルなものですが、メッセージ性と巧妙に隠された意外性が評価されたのではないかと思います。
神経衰弱における最後のワンペアーは、普通に考えればマッチするはずです。そのため、最後のパネルをめくればゲームがクリアーできるものと、ユーザーは完全に油断している心境でしょう。そこに、「同じ図柄なのに揃わない」という思いもしない意外な展開を仕込むことで、ユーザーの意識が過敏に反応することになります。テレビでいえば一瞬放送が中断してしまうような放送事故と同じ原理ですね。この、ユーザーが画面を覗き込むタイミングで「類似品にご注意を」という広告のメッセージを投げ込むことで効果を出そうと考えたのです。
この発想は千利休の逸話がヒントになっています。『利休の庭に見事なアサガオが咲いているというので、秀吉は利休のもとへ出かけていった。利休の庭を見て驚いたのは、アサガオどころか一輪の花も咲いていない...。利休が茶室から手招きをするので、秀吉は残念そうに茶室に入ると、なんとその床の間には、色鮮やかなアサガオが、“ただ一輪だけ”活けられており、これに秀吉は深く感激した。』
人の感情を捉える方法は、最上級のおもてなしをすることだと僕は思います。そしてそのおもてなしとは、忘れられない出来事を演出することで、これには意外性という“良い意味での『裏切り』”が不可欠ではないかと思います。
体験型のバナー
−− バナー広告としての新しさについて。
今井: ユーザーをWEBサイトに誘導することもバナー広告の大きな役割だと思いますが、バナーそのもので得た体験を通じて人々に“あること”を気づかせる方法もあります。数年前に見かけたハンセン病のバナー広告では、空のコーヒーカップを待つ上司の手と、その反対側にコーヒーポットが置かれていました。コーヒーを注ごうとマウスでコーヒーポットを操るのですが、手が震えて思うように動きません。やっとの思いで上司のコーヒーカップにコーヒーを注ごうとすると、直前でこぼれてしまい激しく憤慨されます。この広告では、ユーザー自身がバナー上でハンセン病を疑似体験することにより、思うように手が動かない患者の気持ちを知るきっかけを与えたのです。
今回の「神経衰弱」バナーも、最後のワンペアーが同じ図柄なのにマッチしない理由を、ユーザー自身が自問自答しながら発見していきます。結果的に、“疑う意識”がバナー体験を通じて芽生え、実際に商品を購入するときに役立てられるようになります。
技はいろいろ、ハートは一つ
−− WEB広告を制作する上で心がけていることは。
今井: ズラーっと話してもいいですか?「いいモノ。」「新しさ。」「反逆精神。」「間。」「企画と演出。」「裏切り。」「直感。」「おもてなし。」「色っぽさ。」「広告の本質。」「普遍的な人間の感情。」「嗜好の変化。」「ブランド。」「“厚底ブーツ”が広告をしなくても売れた理由。」「客観視。」「尊敬。」「感動。」「10秒で伝わる企画。」「リズム。」「快感。」「感じる理由。」「忘れられない広告。」「瞬発力。」「オリジナル。」「勢い。」「メッセージ。」「デッサンと広告制作。」「消費者は背表紙で本を買う。」など、話しきれないほど沢山ありますが、常に『クライアントが大満足するもの。』を一番に心がけています。
どうすればティッシュを受け取ってもらえるか?
−− 最近のネット広告について。
今井: バナーの受賞なのでバナー広告の話をさせていただきますが、情報が欲しくてサイトを見に行くと、“あってもなくても変わらないようなバナー広告”が表示されるときがありませんか?TVCMでいうと、早送りしてスキップさせたくなるような広告ですね。この状態では、絶対にクリックはしてもらえません。ましてや、出稿する媒体に大きな金額を支払うわけですから、こだわりに満ちたTVCMを作る時のような気持ちで制作する必要があります。良いTVCMは、部屋でテレビをつけながらボーっと雑誌を読んでいると、面白い音楽やナレーションが流れてきて、ついついTV画面に目が移ってしまいます。そんなバナー広告こそが、人の心を引き付けて効果を得られものになっていくのではないでしょうか。
僕は、バナーをクリックしてもらうことは、街頭で配るティッシュを受け取ってもらうこととすごく似ていると思います。男性に対しては笑顔の可愛い女の子達がウィンクをしたり、女性にはイケメン集団が配って踊りを加えたりと、工夫を凝らすことでようやくティッシュを受け取ってもらえるようになる。そもそも、消費者はティッシュを求めて街を歩いているわけでもなく、もちろんバナーを見るためにサイトに訪れているわけでもないので、彼らを振り向かせるには魅力的なアイデアがなければ難しいわけです。
そろそろ、“早送りされちゃうCM”や“工夫のないティッシュ配り”の時代は終わりにして、ユーザーを振り向かせられるような、エモーショナルなアイデアバナーを考える時期なのかもしれません。バナーをクリックしてもらうための方法は色々あると思いますが、僕は魅力的な“おもてなし”が大切だと思いますし、どうすれば街頭でティッシュを受け取ってもらえるか?を考えていくとおもてなしの本質が見えてくるのではないかと思うのです。
実際は、ティッシュを受け取ってもらうよりバナーをクリックしてもらうほうが難しいんですけどね。バナーは鼻もかめませんし。
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今井康仁 × 久保ヒロト
今井:久保さんは小さい頃から建築・インテリアに興味があったのですか?
久保:そうですね。思い返すと、公園や教室などでも、まわりにあるものを使って、仕掛けをつくるとか、建築的な遊びをしていたように思います。とにかく、いたずら好きでしたね。人を驚かせる事に、喜びや好奇心を感じていました。今でも、その延長線上にいるのかもしれません。今井さんのご家族は建築関係者が多く、ご自身も、大学では空間デザイン専攻だったと伺いました。どのようなきっかけで、空間デザインを経て、広告の世界へ飛び込まれたのでしょうか?
今井:“ いたずら好き ” というのが最高ですね。その言葉を聞くとワクワクします。僕は、中学生の頃にはすでにインテリアデザイナーになりたいと思っていました。毎日、インテリア雑誌を読んでは空間のスケッチをしていたし、高校生になる頃にはインテリアデザイナーになるための大学を決めていました。といいながら女の子にモテたかったので、アート系は裏稼業で、ずっと部活やバンドをやって思春期を謳歌していました。
大学は空間演出デザイン学科というところで商業ディスプレイを学び、商業空間や照明などを設計する毎日でした。大学に入学する前に建築の専門学校に行ったのですが、サーフィンして遊んでばかりだったので、大学に入ってからは今では考えられないほど勉強しました。そこで出会ってしまったのがインターネット。右も左もわからない僕に大学の同級生が手取り足取り教えてくれて、最初に見せられた yugop.com ver.2 1998-1999(中村勇吾さんのパーソナル・サイト)や TOMATOのサイトでドキモを抜かれました。当時はヤフーのことをヤッホーとみんな呼んでいたし、トム・ハンクス主演の映画のワンシーンでyou got mail!と言われても「メールって何だ?」という時代でした。新しい媒体に魅せられてすっかり現実空間への興味がインターネットに移り、世界の 先端サイトに感動しながら 自身のサイトを毎日つくり続けました。気づくと、友人経由で 葵プロモーションというTVCM制作会社のデジタルセクションから声をかけてもらい、バイトがスタートしました。その後、葵プロモーションに入社して、TVCMの企画演出部出身で現aoi-dc社長の青山さんや取締役の江田さん、キリンビール大学の立案者である佐野さんの下で、広告の基礎知識やWEBに関するあらゆることを教わりました。これが僕の広告業界の始まりです。
久保:今井さんは、家具やインテリアのことも詳しいなぁと思っていましたが、そこまで志されていたとは、知りませんでした。勇吾さんのサイトは、奥行感もあるし、動きが物理的で、現実のインテリア空間ではできないことが繰り広げられていて、僕も夢中になりました。きっと、今井さんがつくる広告には、インテリアを学んだセンスがいかされているのでしょうね。
今井:いかされているといいのですが...笑 久保さんはどのような経緯でクラインダイサムアーキテクツに入社されたのですか?
久保:大学1年のときから、非常勤講師の先生の設計事務所で、毎日、バイトをさせてもらっていましたが、卒業する頃には、建築だけではなく、家具やグラフィックなど、いろいろなことをやってみたいと思うようになりました。ヨーロッパ圏の事務所では一般的なことだと思います。日本では、建築、インテリア、家具など、何でも挑戦している事務所は少なくて、クラインダイサムがおもしろいことをやっているのは雑誌等で知っていましたが、英語がしゃべれなかったので無理だろうなと思っていました。しかし、別の先生から、アストリッド(クライン)は日本語ぺらぺらだよとお聞きして、すぐに電話してみたんです。それで、ポートフォリオを見てもらうために事務所をたずねて、初めは CG 制作のバイトを試しにやらせてもらいました。そのうち、「毎日きますか?」と言ってもらって、それからバイトで通うことになりました。当時は、あまり忙しくなく、1物件を全員(4人)でやったり、ランチもパーティーに出かけるのも、いつも一緒でした。 だんだん事務所も忙しくなり、スタッフも増えて、ワークスタイルも変わってきましたが、居心地のよいアットホームな事務所で結局8年間も在籍してしまいました。
久保:設計事務所では、ボスを中心にスタッフが設計作業をして、施工会社に見積や施工をお願いするというのが一般的なプロセスですが、広告ではどのような仕事の進め方をしているのでしょうか?
今井:一般的にクライアントから広告会社が仕事を依頼され、クリエイティブの企画立案をし た後、 広告の制作会社にお願いをするのが普通ですが、プロジェクトによって 異なります 。海外では一般的なのですが、広告代理店のクリエイティブが制作会社を兼ねる時もあります。建築設計でいえば、久保さんが施工に深く関わるようなものです。クリエイティブディレクターによってはコミュニケーションの全体プランだけで現場を見ないという人もいますが、思い描いた以上のモノが実現するのであれば僕はどんな方法を使ってもいい と思っています。
僕の場合は自ら手を動かす時もあるし、そうでない場合は 忙しくても制作の現場に何度も足を運び、現場の現場に入り込んで 彼らと共にモノをつくるようにしています。もしかすると僕のやり方はルール違反なのかもしれませんが、ルールはルールです。それよりも、クライアントが求めるオーダーに対してゴールを明確にして、制作現場の人たちと共通意識を持 って一緒に 作る スタンスが良いモノを作る 鍵だと思います。企画が良くても落とし込みで失敗する広告はたくさんあ るので、そうならないためにも常に制作会社の方々とコミュニケーションを取り合います。 制作の現場は 企画が理解できるのに技術的なことで悩んでいることが多いし、信頼して任せて欲しいと 思っている気がします。必要な時には必ずそばにいて、必要じゃない時には距離をおいて、未来の達成感や称賛は共に味わうことが大切ですね 。 僕のような立場の人は制作会社の方々に対する尊敬やバランス感覚が必要で、頭ごなしにディレクションしても現場の人たちは絶対に動いてくれません。男女の恋愛のようなものですね。
久保:すばらしい考え方ですね。今井さんのこだわりや情報収集の努力は、傍で実感しましたので、仕事上の取り組みも容易に想像できます。僕も、施工会社やメーカーの方にも、仕事をこなすだけではなくて、完成した喜びを共有してほしいと思っています。一般的ではない施工方法や面倒な依頼で、よく嫌がられますが、よいものをつくることが目標ですからね。普段無口な職人さんやデザインに興味がなさそうな業者の方が一言褒めてくれたり、喜んでくれると、うれしいです。もちろんクライアントが喜んでくれる事が、一番の幸せです。辛かった事や苦労を忘れて、またがんばろうという気持ちになりますね。商業施設などでは、利用する第三者の反応も気になります。開店後も、繁盛しているかな?なんて。
今井:そうですねー、現場の人とは共感したいですね。難しい施工であればあるほど、現場の職人さんの評価になりますからね。久保さんの設計を『設計は設計だから』という気持ちで割り切ってやられる人もいるんでしょうけど、すべての価値は現場にかかっていますからね。『マグロはマグロ』でも、料理人の気持ちや技術次第で『マグロ以上のマグロ』になるんですよね。『なんでこんなおいしいの?』みたいな。建築業界の詳しい事情はわからないのですが、設計する人だけにスポットライトがあたってしまうので、実際に作る職人さんたちがもっと脚光を浴びるべきなんですよ。伝説の現場監督とか。伝説のタイル職人とか。伝説の電気屋さんとか。そうすれば現場のモチベーションも上がるし、建築家と二人三脚でもっといいモノが日本に生まれるんじゃないでしょうか。僕の親戚も建築系のこだわりの職人なのですが、まったく脚光浴びないですもん。でも、誰よりも美しく仕上げる職人を目指せば、絶対に仕事は集中すると思うんですけどねー。
今井:そろそろ時間だと思うのでこの辺で終わりにしようと思うのですが、僕にとってモノづくりとは『プレゼント』です。学生時代に住宅展示場で暇をしている子供相手に似顔絵を描くバイトをしていたのですが、子供とお母さんが大喜びすることを想像しながら絵を描くんです。僕自身が楽しんでゴールを想像していると、結果的にホントにいい絵が描けて、子供から「お兄ちゃん、ありがとう!」って目をキラキラさせて言われ、お母さんもお父さんも大喜び。つられて僕も大喜びで、みんなハッピー。僕はそんな純粋な気持ちがあるからいいモノが作れるんだと信じていますし、今の仕事でも常に心がけるようにしています。久保さんたちのような業界の場合は、現場の職人さんが現場監督に対して、現場監督が建築家に対して、建築家は施主に対して、施主はパートナーに対して『プレゼント』の気持ちという感じでしょうか。予算や時間の縛りもあってうまくいかないことのほうが多いのかもしれませんが、全員が前向きな気持ちでいれば、もっともっといいモノが増えるんでしょうね!考えてみれば、apple社の製品には『プレゼント』という言葉がスムーズに当てはまりますね。きれいごとを言ってしまいましたが、きれいごとがいいモノを作るんだと思います。久保さん、今日はありがとうございました!
久保 ヒロト
Hiroto Kubo
1975年生まれ。日本大学理工学部卒。クライン・ダイサム・アーキテクツ(1999-2007)にて、「かんばんビル」「R3 ukishima」「リサ・パートナーズ オフィス(ShimaShima LSize)」「ビーコン コミュニケーションズ オフィス」「i-fly Virgin Wonderwall」など、商業施設、オフィス、住宅、屋外広告等のプロジェクトを担当。2008年に独立し、HIROTOKUBO ARCHITECTURE設立。2009年〜リリカラ株式会社顧問デザイナー。建築、インテリアの分野だけではなく、広告やファッション、植物のジャンルとのコラボレーションも、積極的に取り組んでいる。「大使館通りのレジデンス」のほか、「Formes 表参道オフィス」「ビジネスシャツデザイン」のプロジェクトが進行中。HP: www.hirotokubo.com
2009.1.31
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